Moonshot Research and Development

Item 9: RRI & Ethics

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気象制御において社会合意形成を図るプロセスを検討
ELSIの観点から気象制御技術を検討・評価

海外のCO2地下貯留や太陽光コントロールなど、海外で進められている市民参加型の科学技術評価やResponsible Research and Innovation (RRI)の事例を取り上げ、気象制御において社会合意形成を図るプロセスを検討します。
また、気象制御技術が既存の自然観・倫理観・社会観へ与える影響をELSIの観点から検討・評価します。

研究開発課題9-1気象制御へのRRIの推進

研究開発課題推進者: 立花 幸司(項目長)

研究概要

ELSIの観点から、気象制御技術が既存の自然観・倫理観・社会観へ与える影響を検討・評価します。
海外のCO2地下貯留や太陽光コントロールなど、海外で進められている市民参加型の科学技術評価やResponsible Research and Innovation (RRI)の事例を取り上げ、気象制御において社会合意形成を図るプロセスを検討します。

研究開発方法

【方法の背景】
気象制御技術が既存の自然観・倫理観・社会観へ与える影響をELSIの観点から検討・評価するに際しては、人々が形成してきた価値観(自然観・倫理観・社会観)の理解が欠かせません。
たとえば、『科学・技術・倫理百科事典』(全5巻、丸善、2012年)の「地球(Earth)」という項目(4ページ)では、「地球」は単なる自然物ではなく私たちにとって一定の価値をもつものであることから、地球環境への工学的介入の倫理を検討する際には、人々が「地球」をどのように捉えてきたのかについての理解が欠かせないとしています。その上で、仏教とネイティブ・アメリカンの捉え方を紹介し、「これらの哲学的視点が、地球システム科学および地球システム工学と統合できるかどうか」が肝になると述べています(p.1448)。
研究開発課題9-1では、こうした科学技術倫理学分野における認識を踏まえつつ、気象制御へのRRIの推進に必要となる、気象制御技術が既存の自然観・倫理観・社会観へ与える影響予測を示します。

【具体的な方法】
方法としては、国内外の環境倫理学分野における気候工学の倫理(ELSI of geoengineering)の研究動向の調査に基づいて、実際の技術評価事例を複数検討し、検討結果として抽出された重要ELSI項目に基づいて、気象制御に関する社会合意形成を図るプロセスを検討・立案し、実施を要する環境リスク評価や社会対話に関してアクションリストを策定する、という手続きをとります。
また、これらの作業は、関連する文献・事例調査のみならず、実際に参加した人々、研究者、行政関係者に対する聞き取り等の現地調査を通じて達成されます。この両者を統合することにより、気象制御技術の社会実装に際して考慮すべき項目を明らかにします。

研究開発の重要性

前述の『科学・技術・倫理百科事典』では、西洋における地球理解の突端として、プラトンの『ティマイオス』『パイドン』、そしてアリストテレスの諸著作での地球理解とその影響に、全4ページ中2ページを割いています。また、2022年度より始まった高校新課程「倫理」では「国際社会に生きる日本人の自覚」として、和辻哲郎の『風土』などの思想家に言及しつつ、日本の風土の観点からの日本の価値観の形成にかんする記述が、倫理の検定教科書を刊行している5社すべての教科書で記載されています。
また、2021年には、ハーバード大学の研究グループがスウェーデンの宇宙機関と共同して計画した、成層圏での太陽光コントロール実験が環境保護団体や大気に対する考え方が実験者側と違う人々からの反対などもあり、中止されるということもありました。そして、NASAが2023年9月に公表したELSI関連の報告書では、NASAがおこなってきた「宇宙葬」に対して、月や宇宙空間に対して異なる考え方をもつネイティブ・アメリカンなどからの批判があったことをふまえ、大気や宇宙などの自然環境に対して異なる考え方をもつ人たちを配慮したRRIがこれから必要だと述べ、NASAのRRIとしてこれから人文社会科学の研究者をどのように組み込んでいくのかが大事になると述べています。

このように、自然環境に介入する開発研究が適切に推進されるためには、影響を受ける社会やそこに生きる人々が伝統的に育んできた価値観や歴史に対する理解と配慮が求められます。ここで重要な事は、そうした価値観は、現在に生きる人々にとってさえ、無自覚に、無意識的に形成されている側面があるということです。気象制御の推進のためのRRIの構築には、こうした潜在的な価値観を明確にし、技術の社会実装に際して生じうる衝突をできるだけ未然に防ぐことがもとめられます。
そのためには、市民参加型の科学技術アセスメントをおこなうことと平行して、人々の価値観を形成してきた思想に関する文献研究も部分的に加味することが有用です。本研究課題で、環境倫理学分野の文献調査とインタビューを手法として用いているのはこの点も明らかにするためです。

そして、ステイクホルダーとなる人々への丁寧な説明と率直な意見聴取と並んで、そうした人々のもつ伝統的な価値観の洗い出しとそうした価値観への理解、そして配慮が求められる、と考えます。
そうした理解と配慮があってはじめて、研究開発実施主体が見落としているリスクの洗い出し、実装に際して衝突する可能性のある既存の伝統的な価値観(自然観・倫理観・社会観)との調整や解決等が可能となります。その意味では、研究開発課題9-1は、数ある気象災害の中で本課題を対象とする「海上豪雨生成」や「線状降水帯」のみに関連するものではありません。しかし、「海上豪雨生成」や「線状降水帯」といった気象現象の制御のための大気操作という新しい技術は、人々のもつ自然観・倫理観への影響を予測し、伝統的な価値観との調整を図ってはじめて社会に望ましい形で実装されるものですから、本研究は本題にとって必要不可欠な研究課題です。
このような仕方で、課題09-1の研究成果は(他のELSI班とも協同しつつ)ムーンショット目標8全体に貢献するものです。その一方で、台風、ゲリラ豪雨、集中豪雨といった気象災害に対する自然観・倫理観はそれぞれ異なるとも想定されます。そのため、まずは「気象操作」一般への調査から開始し、徐々に本課題で対象とする集中豪雨・線状降水帯に直接関連する自然観・倫理観の調査を深めていく方針です。

取り組みにあたり予想される問題点とその解決策

予想される問題点は、環境倫理学や関連する科学技術社会論分野において、国内外の研究では必要となる情報が十分には入手できない可能性です。
この問題の解決方法は、国外の事例やその経緯の調査、関連機関や施設、関係者とコンタクトをとり、必要なだけインタビュー調査を追加することで、RRIの推進に必要となるだけの情報を収集し、分析することで解決できると考えられます。

メンバー
PI
TACHIBANA, Koji
Associate Professor, Chiba University
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