Moonshot Research and Development

Item 1: Control Theory

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陸域豪雨を緩和する未来に気象場を誘導する、気象制御手法を開拓

複雑かつ大規模な現象である気象を操るにあたってハードルが3つあります。
まず、気象への効果的な介入を見つける必要があります。闇雲な介入では我々が望む気象を実現できるとは限らず、介入の仕方を注意深く選択する必要があります。
また、介入は実施可能でなければいけません。気象は大規模なので制御には膨大なエネルギーが必要と考えられますが、一方で我々人類が費やせるエネルギーにも制約があります。この制約内で介入を実施する必要があります。
最後に介入は素早く計算可能である必要があります。気象現象の大規模性を克服して、豪雨被害が予見されてから発生するまでの短時間で介入を計算しなければなりません。
これら3つのハードルを克服するために、モノとコトを思い通りに操るための理論である制御理論は必要不可欠です。しかしながらこれまでの制御理論では気象のような大規模現象は取り扱われていません。

これらハードルをクリアするために本項目では2つの研究課題を設けています。
課題1-1 「フィードバック制御手法の開発」では、制御理論において基礎的パラダイムであるフィードバック制御の考え方を発展させ、上記のハードルを克服できるような制御理論を構築します。 この項目を補完するために課題1-2 「データ駆動手法を用いた制御手法の開発」では、人工知能技術に加えてアンサンブル予測等のデータ技術を活用し、既存の制御理論の枠を超えた気象制御手法を開発します。
これら課題の推進と相乗効果を通じて本項目では、海上豪雨生成を通じた陸域豪雨緩和の実現可能性を計算機上で示します。

研究開発課題1-1フィードバック制御手法の開発

研究開発課題推進者: 大塚 敏之

研究概要

単発的な介入の時間と場所を予め探索するフィードフォワード制御から研究開始し、モデル予測制御などより高性能なフィードバック制御手法へ発展させます。
また、アンサンブル予測を活用したモデル予測制御など、気象制御手法として律速となりえる計算高速化手法や不確かさを扱う方法を開拓します。

研究開発方法

数値気象予測モデルの状態(気圧、風速、気温、湿度)にさまざまな場所と時刻で摂動を加えて気象予測を行い、その結果生じる積算降雨量の摂動を解析します。状態の摂動から降雨量の摂動を予測する摂動モデルを用いて逆問題や最適化問題を定式化し、所望の降雨量摂動を実現するのに必要な状態摂動を算出する方法を開発します。必要な状態摂動を実現するために必要な介入量の算出方法についても開発し、介入量を予め決定するフィードフォワード制御の実現可能性を示します。
さらに、時々刻々変化していく実際の気象に応じて介入量を決定するフィードバック制御(モデル予測制御)の手法を開発します。介入量の算出方法とデータ同化技術を統合するとともに計算量低減手法も開発し、現実的な計算時間と介入量によって陸域豪雨が緩和できることを数値シミュレーションで示します。

なお、災害緩和のために必要となる海上豪雨の規模や、陸域降雨量の低減量は、災害イベントにより異なると考えられるため、研究開始時点では明確な数値目標を設定しません。
研究プロジェクト全体としては、課題5-2の成果も踏まえ、海上豪雨形成の可能性が高い事例を令和5、6年度に絞り込みます。また、選定された事例に対し、課題8-1、8-2により洪水氾濫計算・経済被害推定計算を進め、どの程度の海上豪雨生成量・陸域降水の低減量が必要か調査し、低減すべき降水量の目標値を、選定した事例ごとに早期に設定し、本課題の目標値としても利用します。

また、本課題において開発したアルゴリズム・技術は、課題4-1で推進する気象制御システム開発に統合を図っていく方針です。

研究開発の重要性

降雨量を変化させるためにいつどこでどれくらい状態を変化させればよいか、その変化を生じさせるためにどのような介入がどれくらい必要かを算出する技術は、陸域豪雨を緩和する気象制御手法を開発する上で必要不可欠です。
ただし、そのためには大気の状態が分かっていなければなりません。また、完全な予測は困難であるため、各時刻における実際の状態に応じて介入量も変化させるべきです。したがって、気象制御を実現するには、介入量の算出技術とデータ同化技術を統合して実時間で実行するフィードバック制御手法の構築が必要不可欠です。気象予測自体の計算量が多く、その最適化にはさらに多くの計算が必要になるため、フィードバック制御を実現するには計算量の低減技術の開発も必要不可欠となります。

取り組みにあたり予想される問題点とその解決策

気象のカオス性により長時間にわたる高精度予測は困難であり、長時間にわたり高精度な摂動モデルも構築は困難と考えられます。
しかし、風上の湿度が風下の降雨量に影響するなど短時間の巨視的な因果関係は成立するため、短時間の巨視的な摂動モデルは構築可能と考えられます。摂動モデルの有効な時間範囲から、モデル予測制御においてどれくらい未来までを予測・最適化すべきかの指針も得られます。さらに、摂動の効果が予測しやすい状態や介入方法を選択する指針も得られます。また、現実的な計算時間で介入量を算出できるかも未知であるが、介入を行う場所と時間の範囲を限定すれば、計算量は低減できます。
最終的には計算量と最適性とのトレードオフを行うことになると想定されます。

メンバー
PI
OHTSUKA, Toshiyuki
Professor, Kyoto University

研究開発課題1-2データ駆動手法を用いた制御手法の開発

研究開発課題推進者: 小蔵 正輝(項目長)

研究概要

気象観測情報に基づく大アンサンブル予測等のデータ資源を活用した気象制御手法を開拓する。具体的にはアンサンブル予測に基づくモデル予測制御など既存のデータ駆動型制御手法の網羅的検討、調整、組合せならびに評価を通じて、初期値や数理モデル等における不確定性を有する大規模動的システムである気象現象に適したデータ駆動型のロバスト制御手法を開拓します。

研究開発方法

数多くある既存のデータ駆動型制御手法の中でも、気象制御へ向けたスケーラビリティならびにアンサンブル予測との親和性が期待される方法論である粒子フィルタ、モンテカルロ法、深層展開などを援用したモデル予測制御手法を中心に検討を進めます。加えて数理的基盤が必ずしも確立していないような発見的手法も考慮に入れることで、検討する既存手法の多様性と十分性を確保します。
これら制御手法を気象制御の観点から解釈し直し、また必要に応じて調整、統合などすることで、気象現象に適したデータ駆動型のロバスト制御手法の開拓を目指します。

なお、災害緩和のために必要となる海上豪雨の規模や、陸域降雨量の低減量は、災害イベントにより異なると考えられるため、研究開始時点では明確な数値目標を設定しません。
研究プロジェクト全体としては、課題5-2の成果も踏まえ、海上豪雨形成の可能性が高い事例を令和5、6年度に絞り込みます。また、選定された事例に対し、課題8-1、8-2により洪水氾濫計算・経済被害推定計算を進め、どの程度の海上豪雨生成量・陸域降水の低減量が必要か調査し、低減すべき降水量の目標値を、選定した事例ごとに早期に設定し、本課題の目標値としても利用します。

また、本課題において開発したアルゴリズム・技術は、研究開発課題4-1で推進する気象制御システム開発に統合を図っていく方針です。

研究開発の重要性

気象数理モデルと大アンサンブル予測を活用せずに、本研究開発プロジェクトで目指す海上豪雨形成と陸域豪雨被害低減を実現することは困難であると考えられます。
本研究開発課題は、後者を活用するための技術を開発し評価することで、計算機上で上記介入の実現可能性を示すものであり、本プロジェクトの遂行にとって必要不可欠です。
さらに本課題の遂行により得られる技術は、海上豪雨形成や陸域豪雨被害低減にとどまらない様々な気象制御シナリオに対しても長期的には適用可能となることが想定され、したがってムーンショット目標全体への貢献も期待されます。

取り組みにあたり予想される問題点とその解決策

上述のデータ駆動型制御手法の有効性は数十や数百といった比較的低次元の状態空間を有する動的システムに対して既に確認されており、また大規模なシステムに対しても適切な調整や修正のもとで適用が可能になると定性的に判断しています。
しかし、超大規模な動的システムである気象数理モデルに対する実際の適用まで推し進める際には、主に計算量の側面において困難が想定されます。この困難は、Lorenzモデルのように簡便なモデルから始めて徐々にモデルの規模を大きくしながら技術開発を連続的に行いつつ、また人工知能分野において近年発展が著しい学習高速化技術に代表される省計算技術を積極的に取り入れることで解決を図ります。

メンバー
PI
OGURA, Masaki
Professor, Hiroshima University
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