ムーンショット型研究開発

研究開発項目8:経済被害推定

PAGE SCROLL

気象制御による水害被害低減効果算定のための洪水被害推定モデルを開発

本研究開発テーマは、気象制御を実施した際の経済被害低減効果を推定するために、日本国内全域を対象とした経済被害額の推定技術を開発しています。
具体的には、①気象制御を実施した場合と実施しなかった場合での氾濫域や浸水深の変化を高解像度で推測できる、日本全国を対象とした洪水氾濫再現モデルの開発、および、②人口および民間資産・企業活動に関する各種統計データに基づく暴露資産データベースを構築し、日本全域の洪水被害を浸水深情報に基づき推定可能な経済被害額推定モデルの開発、の2課題を実施します。
開発した洪水氾濫再現モデルと経済被害額推定モデルを活用し、気象制御による経済被害低減効果の定量化を目指します。

研究開発課題8-1洪水リスクの定量化

研究開発課題推進者: 山田 真史(項目長)

研究概要

豪雨災害の再現解析から、気象制御の洪水リスク変化の定量化に取り組みます。
日本全国を扱うことが可能な水文モデルを開発し、降水量などの気象情報を入力として浸水深を推定します。これまでに知見のある越流に伴う洪水から開始し、破堤など確率的な予測が必要でより困難な災害について、対象範囲を拡大していきます。

研究開発方法

広域での降雨・流出・氾濫現象を、変数間の整合性を確保しつつ一体解析が可能な分布型水文モデルであるRainfall-Runoff-Inundationモデルをベースとし、広域での洪水浸水深再現モデルを構築します。
この際、実施者らが開発してきた計算量爆発を回避したパラメタ推定手法を適用して地域ごとの流出特性を踏まえた最適パラメタ設定を実施するとともに、精度の高い流出浸水解析に必要となる水門等の人工構造物の網羅的なモデル導入を、既往研究では流域スケールを対象として実施されてきましたが、本研究では日本全国を対象に実施します。
また、洪水リスク評価の信頼性を確認するため、過去の大規模浸水イベントの再現計算から精度評価を行います。

研究開発の重要性

本プロジェクトが実現を目指す豪雨被害軽減の効果の定量化には、信頼性の高い洪水経済被害推定手法の構築が不可欠です。
気象予測情報を入力として洪水浸水深空間分布を求めるモデルの日本全国での整備は、経済被害推定の核となります。精度の高い流出浸水解析には、地域毎の洪水流出特性をモデルパラメタへ適切に反映すること、及び氾濫形態に影響する破堤現象や水門等の人工構造物の網羅的なモデル導入が必要となり、本研究開発課題ではこれらを通じた洪水リスクの定量化を実施します。

取り組みにあたり予想される問題点とその解決策

地域ごとの流出特性のモデルパラメタへの反映における問題点として、広域最適化の際に探索空間が高次元化することによる計算量爆発と、豪雨イベントによって最適パラメタが変化する揺らぎ現象とが挙げられます。本研究開発課題では、実施者らが開発してきた尤度に基づく多項式時間での多イベントに対してロバストなパラメタの推定手法を日本全域に適用することで、これらの問題へ対応します。
また、人工構造物のモデル導入に際しては、広域かつ均質なデータベース構築が課題ですが、本研究では各種オープンデータソースから均質な全国データベースを構築することでこれに対応します。

メンバー

研究開発課題8-2水害被害推定モデルの開発

研究開発課題推進者: 山田 進二

研究概要

浸水深データに基づいて日本全域の洪水被害を推定可能な被害推定モデルを開発します。
水文モデルにより計算される浸水深データと被害推定モデルを組み合わせることで、日本全国の水害被害額の推定が可能となります。
なお、浸水深データは課題8-1の成果物を利用することを前提とします。日本の水害の中で最も被害額の大きい家屋・事業所などの一般被害から着手し、公共・公益被害へ推定対象を拡大します。

研究開発方法

損害保険業界において自然災害リスクの定量評価を行う手法として一般的に利用されているCATモデル(Catastrophe model) の分析手法をベースとして、日本全国の水災を対象とした経済被害推定モデルを開発します。

なお、本課題は水文モデルで計算する浸水深データを元にして、洪水による経済被害を推定するための暴露資産データベースの構築と洪水被害関数の開発に注力します。浸水深データは研究開発課題8-1において日本全国の浸水深推定が可能な降雨流出氾濫モデルの開発が行われるため、課題8-1で計算される浸水深データを用います。

研究開発の重要性

本研究開発課題によって開発される経済被害推定モデルは、水災によって発生する日本全国の経済的な被害額を定量的に試算することができます。これは、本プロジェクトが実現を目指す「海域での豪雨生成・陸域での降雨量低減による豪雨被害低減」の被害低減効果を示すために必要不可欠な技術です。

取り組みにあたり予想される問題点とその解決策

本研究開発課題で分析対象としている水災は、被災の有無やその程度に関する局地性が極めて大きいことが知られています。したがって、暴露資産データベースの空間解像度が粗い場合、推定結果の不確実性 (または実態との乖離) が大きくなる恐れがあります。暴露資産データベースの空間解像度を可能な限り高めるため、国勢調査や住宅土地統計といった一般に公開された統計データだけではなく、必要に応じてより空間的に細密な有償データも活用して、データベースの構築を進めていきます。

メンバー

研究開発課題8-3斜面崩壊リスク評価と国際展開

研究開発課題推進者: 風間 聡

研究概要

気象介入に伴う周辺域の懸念への対応を目的として、介入操作により生じる気象の改変が周辺国の災害リスクに与える影響を把握するために、甚大な被害につながる斜面崩壊に着目し、最新の知見を踏まえた斜面崩壊リスク推定モデルを開発することにより、気象介入操作が周辺国の斜面崩壊リスクに与える影響を評価します。
日本域における極値降雨の変化に伴う斜面災害のハザードを、過去の実績に基づいた発生確率モデルと力学モデルを組み合わせたハイブリッドモデルにより推定するとともに、人的被害と経済損失のリスクを定量的に評価します。方法が確立された後、東アジア域または東南アジア域にも適用し、その影響について評価します。

研究開発方法

国際的に広く用いられる無限長斜面安定解析に基づく力学的手法の1つであるSLIP(Shallow Landslides Instability Prediction)モデルと国内での実績があるロジスティック関数に基づいた斜面崩壊ハザードモデルを基本として、最新の力学モデルと確率モデルの差異(パラメータや同定方法)を把握します。これの入力値である降雨は確率降雨量として与えることによって斜面ハザードとして力学モデルから年期待安全度を、確率モデルから年期待発生確率を得ることができます。これを流下方向に組み合わせることにより、精度の高い斜面ハザード推定モデルを構築します。組み合わせ方法やパラメータの設定については国内の実績データにより、最適な手法を選択します。
その後、周辺国を含む広域において気象介入数値実験を実施し,開発した斜面崩壊リスク推定モデルを適用することにより、気象介入の実施が周辺国の斜面崩壊リスク(人的損失や被害額)に与える影響を定性的に評価します。

研究開発の重要性

気象介入の実現には、効果が発現する地域や周辺国からの懸念への対応が欠かせません。特に重要となるのが、気象介入が周辺国における災害リスクに与える影響の評価です。また、本プロジェクトにより開発される気象介入技術の適用により、周辺国においても災害リスクの低下が実現可能であることを定量的に示すことができれば、本プロジェクトに対する周辺国からの心理的抵抗を緩衝することが可能になると考えます。
実空間における気象介入実験の実施には膨大なコストを要します。斜面災害の軽減効果を被害額で表現できれば、費用便益分析が可能となり、介入の効果を定量的に求めることができます。
なお、対象国の選定は、想定する気象介入操作が周辺気象に与える影響の程度に依存するため、研究開始時点では明確に選定しません。気象介入操作が周辺気象に与える影響について、研究開発課題5-1、5-3の成果も踏まえて知見を蓄え、それを基に令和6年度末までに斜面崩壊リスク評価の対象国・地域を選定します。
本プロジェクトの目標達成のため、豪雨の変化を入力とした精度の高い斜面ハザードモデルとリスクモデルの有効性を十分に検証することが不可欠です。

取り組みにあたり予想される問題点とその解決策

力学モデルと確率モデルの組み合わせたモデルは前例がなく、科学的先進性と実用性を併せ持つ研究開発となります。
気象介入を実施した際のハザードの変化のみならず、リスクの推定において日本国内に数多くの実績データが存在しますが、他国、特に発展途上国において良質のデータの収集が困難なことが知られています。推定値ですがアジア工科大学院がリモートセンシングによる斜面災害域のデータを持っており、検証にこのデータの利用を考えます。また、台湾やベトナムには懇意の教員が複数いるため、現地データのアクセスが可能となる予定です。

メンバー
PAGE TOP