最適な制御入力を推定することができる気象制御計算システムの開発
気象制御の実現には、制御入力を与えた時に気象がどのように応答するかを予測し、いつ・どこで・どのような制御を行えば望ましい気象を実現できるかを推定する必要があります。しかし、現時点ではこれらを扱うことができる計算システムは存在しません。項目4では既存の数値天気予報システムをベースに、制御入力が気象に及ぼす影響をシミュレートするとともに、最適な制御入力を推定することができる気象制御計算システムの開発に取り組みます。
また、項目4では、予測・制御計算の高速化にも取り組みます。気象制御の実現には、上に述べたような計算を、災害が発生する前に、適切な制御のタイミングを逃す前に、解き終えねばなりません。しかし、気象予測に使われる数値モデルの実行には一般に多くの計算コストが求められます。現在の計算資源と主流の計算アルゴリズムでは、現実的な計算時間で計算を終えることは困難であることが想定されます。そこで、項目4では、数理研究や深層学習により得られる代理モデルや潜在空間表現技術を、予測・制御計算システムに導入し、これにより、現実的な計算時間で制御入力の算出を実現すると共に、気象制御計算に有効な要素技術の評価を進めます。最新の計算技術である量子コンピュータも活用し、モデル予測制御やデータ同化の最適化計算をイジングモデルに帰着させ、量子アニーリングにより計算を高速化することを目指します。
研究開発課題4-1気象制御計算システムの開発
研究開発課題推進者: 岡﨑 淳史(項目長)
研究概要
領域気象予測システム (SCALE-LETKFを想定)を基盤に、制御入力の推定および介入実験が可能な気象制御計算システムを開発します。 また、気象制御計算システムに必要なアンサンブル介入実験を有効活用するデータ同化手法を開拓し、初期値推定と気象予測を高精度化します。
研究開発方法
領域気象予測システムを基盤に、様々な制御入力(洋上ドーム形成、冷気塊形成、海面水温冷却、マイクロ波加熱、シーディングなど)を扱うことが可能な気象制御計算システムを開発します。 領域気象予測システムとしてSCALE-LETKFを想定します。いつ・どこで・どのような制御を行うべきかという適切な制御入力の推定にはアンサンブル予測が必要となることが想定されますが、より性質の良いアンサンブルを生成する手法(Multi-physics Multi-Parameter Ensembleなど)の探索や、これを有効活用するデータ同化手法(局所粒子フィルタや4次元アンサンブル変分法など)の開発及び高度化に取り組みます。
研究開発の重要性
気象制御の実現には、いつ・どこで・どのような制御を行うのが適切であるという適切な制御入力の推定と、それを入力とした気象予測を一つのプラットフォームで行う予測システムが必要です。
また、制御入力を気象モデルに伝えるアクチュエータ機能を気象予測システムに実装する必要もあります。既存の気象予測システムは、これらの機能を有しません。
本研究は、気象制御入力の推定及び入力を可能にする気象制御計算システムを開発するものであり、シナリオの成功には必要不可欠です。
また気象介入手段の有効性を検討する上で、現実の大気を対象に実機を用いた検討を行うのは、膨大な手間と費用を要するため非現実的ですが、本研究により効率的に検討を進めることが可能になります。
取り組みにあたり予想される問題点とその解決策
気象予測システムのように複雑かつ巨大なシステムを対象に開発を進めると、問題が起きた場合、その切り分けが困難になることが想定されます。そのため、まずは簡易モデルを用いた理想的な系を対象に開発を進め、その後に実大気を扱う問題に取り組みます。
また、介入操作によっては、既存の気象予測システムでは直接的な表現が難しいものが存在します。他課題・他研究班との共同により、介入操作効果のみをパラメタ化し予測システムに取り込むなどにより解決を図ります。
メンバー

研究開発課題4-2気象制御計算の計算量削減
研究開発課題推進者: 小槻 峻司
研究概要
数理研究や深層学習により得られる、代理モデルや潜在空間表現技術を、気象予測計算基盤に反映させます。
これにより、現実的な計算時間で制御入力の算出を可能とすると共に、気象制御計算に有効な要素技術の評価を進めます。更に、モデル予測制御やデータ同化の最適化計算をイジングモデルに帰着させ、量子アニーリングにより計算を高速化する技術を開発します。
研究開発方法
接線形・随伴モデルを用いたモデル予測制御手法 (MPC)、 気象を低次元化し探索次元を絞るMPC、深層学習・代理モデル・量子アニーリングによる計算高速化や制御入力の探索など複数の手段を並行してリスクをヘッジしつつ、最適解を導くために取捨選択を進めます。
なお、災害緩和のために必要となる海上豪雨の規模や、陸域降雨量の低減量は、災害イベントにより異なると考えられるため、研究開始時点では明確な数値目標を設定しません。
研究プロジェクト全体としては、課題5-2の成果も踏まえ、海上豪雨形成の可能性が高い事例を令和5、6年度に絞り込みます。
また、選定された事例に対し、課題8-1、8-2により洪水氾濫計算・経済被害推定計算を進め、どの程度の海上豪雨生成量・陸域降水の低減量が必要か調査し、低減すべき降水量の目標値を、選定した事例ごとに早期に設定し、本課題の目標値としても利用します。
研究開発の重要性
計算負荷の低い制御入力の計算手法の開発と、制御入力計算の高速化技術の開発は、共に本プロジェクトが実現を目指す、「海域での豪雨生成・陸域での降雨量低減による豪雨被害低減」を計算機上で実証するために不可欠の技術です。
非線形力学系制御は、モデル予測制御が工学的に確立済ですが、制御探索次元が高次元であるため、繰返し計算量の膨大さがボトルネックとなりえます。有効な制御探索次元の削減手法と、計算速度の高速化技術の開発は同時進行が求められます。
取り組みにあたり予想される問題点とその解決策
モデル予測制御による制御入力の計算は、数値モデルや初期値が不完全になると、適切な入力値の探索が困難になることが想定されます。そのため、まずは数値モデルの完全性や、初期値の完全性が保証される実験設定で研究を開始し、より難しい問題に順番に挑戦していきます。
また、高性能なフィードバック制御に候補を絞らず、単発的な介入の時間と場所を予め探索するフィードフォワード制御や、アンサンブル感度解析など、より簡易・計算負荷の低い制御手法探索も進め、リスクヘッジを行います。
メンバー

研究開発課題4-3海上豪雨形成のモニタリングに向けた観測シミュレータの開発
研究開発課題推進者: 金丸 佳矢
研究概要
海上豪雨を形成するため気象介入の場所や介入の効果をモニタリングする包括的な観測システムを検討します。
具体的には、既存の気象レーダー・シミュレータに改良を加え、新たな観測手法(雲の周囲の水蒸気量分布を把握するライダーや雲の中の水蒸気量分布を測るレーダーなど)を、計算機上で数値実験する観測シミュレータを構築します。
その観測シミュレータを活用し、既存および新規の観測システムを組み合わせにより、海上豪雨形成のモニタリングに必要な観測手段とその実現性(手法・費用・台数など)を検討します。
研究開発方法
既存および新規の観測システムを組み合わせた海上豪雨形成のモニタリング手法を提案します。
その検討のために、1)日本で開発が進められている気象レーダー・シミュレータ(Joint-Simulatorパッケージに同梱のPOLARRISモジュール)に機能拡張し、新しい観測手法(雲の周囲の水蒸気量分布を把握するライダーや雲の中の水蒸気量分布を測るレーダーなど)を模擬する観測シミュレータを開発します。
また、介入手段によっては介入場所や効果が時々刻々と変化することが予想されるため、2) 海上においても広域かつ高頻度な観測が可能な静止衛星観測と小型衛星コンステレーション観測データを利用しつつ、新しい観測手法を含めたモニタリングに資する観測システムの仕様を検討します。
研究開発を効率的に進めるため、観測シミュレータ開発は研究開発課題6-1「大気加熱・シミュレータ」の大気加熱シミュレータと連携を取りつつ進めます。また、新しい観測手法を含めた包括的な観測システムの検討は研究開発課題4-1「気象制御計算システムの開発」と研究開発項目5「 豪雨生成に有効な介入操作の検討」と連携を取ります。開発を進める観測シミュレータは、気象制御計算システムに観測演算子として統合を図っていきます。
研究開発の重要性
気象制御を実施するためには介入場所の把握しその介入の効果を検証するモニタリングが必要不可欠です。
気象制御の対象現象である海上豪雨は、観測の展開が難しい海上でのモニタリングとなります。そのため、観測展開の問題を克服するべく既存あるいは新規を含めた様々な観測を組み合わせた包括的な観測システムを実現する必要があります。
また、検討のために開発した観測シミュレータは、気象制御計算システムの観測演算子としても活用することも出来ます。モニタリングによって得られた情報は、介入によって変化した気象場の情報も含みます。
介入方針は時々刻々と更新されることも考えられるため、観測演算子の実装は気象制御計算システムに必要な機能のひとつとなります。
取り組みにあたり予想される問題点とその解決策
海上豪雨をもたらす雨雲の中でモニタリングしたい変数を精度よく求めることは難しいことが予想されます。
その場合は、雨雲周辺の風や水蒸気、雨雲内部で部分的に取得可能な風や水蒸気の情報と数値気象モデルの情報を組み合わせることで解決を図ります。そのためにも、研究開発項目4「気象制御計算システムの開発研究」との協力のもと研究課題を進めます。
メンバー

研究開発課題4-4高頻度に更新する雲・降水予測システムの開発
研究開発課題推進者: 大塚 成徳
研究概要
フェーズドアレイ気象レーダや気象衛星ひまわりの高頻度観測を活用した三次元降水ナウキャストやSCALE-LETKFによる三次元雲・降水の予測システムを海上豪雨形成の枠組みに組み入れるための研究開発を行います。また、従来手法と機械学習手法の融合により予測精度の向上と解釈可能性の担保を目指します。海上豪雨形成の屋外実験に際し意思決定に必要な予測情報を提供するとともに、SCALE-LETKF-MPCの高度化を行い、気象制御システムの構築に資する研究開発を行います。
研究開発方法
- 移流及び機械学習に基づく三次元ナウキャスト
ごく短時間の気象予測については、観測データに基づく実況解析の時空間補外、いわゆるナウキャストが数値天気予報モデルを予測精度で上回ることが知られています。また、従来の気象レーダや衛星画像による二次元的な観測データを用いた予測に対して、フェーズドアレイ気象レーダを用いた三次元的予測が降水予測に効果的であることも実証されています。一方で降雨レーダでは降水が起こる前の雲域の予測はできません。そのため、本研究では衛星からの雲画像とフェーズドアレイ気象レーダの三次元降水観測を組み合わせることで雲・降水の統合的な三次元ナウキャストを実現することを目標とします。また、課題4-1などで進めるSCALE-LETKF-MPCに、これらの観測を同化する知見をフィードバックします。 - 高頻度で更新する数値天気予報システム
ナウキャストは実況監視や意思決定に有用である一方、物理法則を正確に計算しているわけではないため、高精度な予測に基づく制御を行う用途には向きません。そのため他の課題と連携してフェーズドアレイ気象レーダや気象衛星ひまわりの高頻度観測を数値天気予報・データ同化システムSCALE-LETKFで同化する研究を推進します。数値天気予報システムによる高精度計算は計算が重く、実時間予測を行うためには現状では大規模な計算資源を用いる必要があります。そのため計算の負荷が大きい部分を機械学習による代理モデルで置き換える研究を進めます。
研究開発の重要性
時々刻々変化する雨雲を解析・予測・制御するには高頻度に更新する予測システムが必要です。積雲対流の持つ時間スケールは一般に一時間程度とされますが、豪雨をもたらすような対流域内部の対流セルは5分から10分で急速に発達します。そのため従来の5分から10分間隔の観測・実況監視では、見えた時には既に現象が極大を迎えていることが頻繁にあります。よって、より高頻度な観測を用いた実況監視を整備する必要があります。鍵となる観測は30秒間隔で三次元的に降水エコーを得られるフェーズドアレイ気象レーダと、日本域を2.5分間隔、最大500 m解像度で撮像できる気象衛星ひまわり8/9号です。これらの観測は気象庁の現業の降水ナウキャストでは活用されていません。研究段階のものとしては、課題代表者がX帯フェーズドアレイ気象レーダの観測を用いて実装した三次元降水ナウキャストや、情報通信研究機構が同様に実装した機械学習による降水ナウキャストがあり、有用性は実証済みです。
取り組みにあたり予想される問題点とその解決策
- C帯フェーズドアレイ気象レーダへの対応
富山湾でのシーディング実験を視野に入れると、利用可能な高頻度観測としてC帯フェーズドアレイ気象レーダが想定されます。これまで実証されてきたX帯フェーズドアレイ気象レーダとは特性が異なる部分があることが予想されます。降雨減衰については、C帯はX帯よりも軽減される見込みですが、観測誤差の特性などはこれから調査を行う必要があります。周波数帯の違いに加えて開発元も異なるレーダであり、観測データの品質管理手法の見直しを行う必要があります。 - 二次元的観測と三次元的観測の融合
気象衛星ひまわりの観測は二次元的な画像ですが、フェーズドアレイ気象レーダは三次元的な観測であり、最終出力としては三次元的な雲・降水の分布が必要とされます。数値天気予報システムでは問題になりませんが、ナウキャスト手法の開発においてはデータ形状の違いは考慮を要します。機械学習手法を用いて異なる形状のデータを統一的に扱うなどの工夫が求められます。
メンバー

